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逆転裁判。
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あらやだ。
拍手コメントを拝見して、しまったと反省です。
ワタクシめ、神乃木さんのアレな日をするーしてしまいました。

パチパチ感謝ですv
いつも本当にありがとうございますvvv
コメントレスもさせていただきました!vv

ということで。
今回の小話は、連載の番外編のお話です。
お話終了後の神ダルのお話。

かま~ん!な方のみ続きへどうぞv


**************


「先生、手続き処理してまいりました」

 待合のソファに座っている俺の前に立つと、成歩堂は義務的な口調で短く告げた。

「あぁ、助かったぜ。手間をかけた。俺が一人でやっちまうには時間のロスが大きかったもんでな」

 裁判所にはあまりいい思い出などない。勝訴の記憶は数多くあるけれど、色濃く残っているのは千尋の初陣が無残な結果に終わったことと、地下のカフェテリアでちなみに毒を盛られた記憶。

(いや、嫌な思い出ばかりじゃねぇな。少なくとも、成歩堂に出会えたことは僥倖だろう)

 正確には、毒を盛られ『かけた』。間一髪で白馬の王子のごとく現れたのはこの成歩堂で、俺をゴドーと呼び毒の入ったコーヒーなどおいしくないと訴えた。

 無精ひげにだらしなく着崩したトレーナー。髪を隠すように深くかぶったニット帽に本心を隠した笑み。一癖も二癖もあるこの男を愛するだなんて、どういう運命のいたずらだろう。出会った当初はそんな予想なんてしていなかった。ただ、漂わせる色香と不釣合いな純粋さに意識を奪われ、その過去から滲む悲しみの色に同情し、あげくの果てには絶望的な激しさで求めるようになっていた。

「依頼していた申請が通るにはまだ時間がかかるそうです。事務所宛てに連絡をいただけるようお願いしておきました。それから、こちらの書類は受理できないと……」

 成歩堂は隣に腰を下ろして書類を指差し一つ一つを説明していく。指示通り、そして、想定以上の働きをしてくれる有能なコネコを見つめていると、胸の中を誇らしい感情が満たしていくのが分かる。この男の全て……ストイックなスーツに包まれた肢体やその心、何もかもに所有の印が刻まれている。みっともなく愛を乞い、幸せにしてくれと願い、そうして俺だけのものにした男。

 成歩堂からはどこかおかしなフェロモンが漂っているのかもしれない。朝と夜、数え切れないくらいに肌を重ねているというのに、見つめているだけで身体の中心が熱くなる。真昼間の事務所でつながったのはつい一昨日のことだが、その体温を感じその匂いを嗅ぎその声を聞きその目で見つめられるだけで、たやすく熱が集中して成歩堂を愛することしか考えられなくなるのだ。

(……クッ、まるで発情期を迎えたケダモノだぜ。あんまりしょっぱなから飛ばしすぎると)

 心の中で自分に対して警告するも、脅しの文句はそこで途切れる。その先に続く言葉が思い浮かばない。飛ばしすぎると、飽きる。壊れる。あとは、何だろうか。飽きることはまずありえない。どれほど愛のしずくを与えすすり合っても、成歩堂はいくつもの顔を隠し持っていてそのたびに新鮮な驚きを生み出す。壊れる、ということもないだろう。関係も、肉体も、心も。知り合ってからの日々で、共に過ごした蜜月の中で、互いにとって互いが欠けてはならない存在であるか、まざまざと思い知った。それこそ初めて肌を合わせた時から気付いていた、この男を失っては生きてはいけないと。

「聞いていますか、先生」

 どこで誰が聞いているかもしれないからと、外に出ると成歩堂は俺の事を『先生』と呼ぶ。一度、法廷で『神乃木さん』と呼んだ際、頭ガチガチの元リーゼント検事に注意されたのだ。裁判で負けたのか憂さ晴らしとばかりにネチネチといびってくる検事に、もちろん俺は応戦してそのさびれた頭皮に素晴らしい刺激を与えたのだが、成歩堂はそれを気にして、以来『先生』と呼ぶようになった。

(少しばかり面白くねぇな)

 その呼称は俺だけのものではなく、裁判所にいる人間の多数が反応する呼び名だ。それこそ、成歩堂が『先生』と呼ぶたびに周囲にいる検事や弁護士たちがわずかに反応するのがわかる。成歩堂が呼んでいるのはこの俺だと威嚇しようにも敵は多く、全てを排除し尽くすことは難しかった。それならそれで裁判所に連れてこなければ、個室やどこぞで打ち合わせをすればいいだけの話だが、同時にこの一種独特のコネコを周囲に見せびらかして自慢したいという気持ちもあった。

「あぁ、もちろん聞いているぜ」

 時計を見れば、有能な秘書のおかげで時間に余裕が出来てしまった。次の予定まで軽く二時間程度あるため、俺はゆっくりと腰を持ち上げて笑みを落とした。

「このあとのアンタの予定はどうなっているんだい?」

「僕の、ですか? 先生のではなく?」

「俺自身の予定は俺自身が一番把握しているさ。次の無粋な予定に続く空白のひと時、いとしのコネコと過ごしちゃいたいと思うのは恋する男のわがままだぜ」

 座ったままの成歩堂の視線が俺を見上げて穏やかに細くなる。そこには仕方が無いですねと苦笑するような寛容さが漂っていて、それを受けた俺にも似た感慨が湧く。

 仕方が無い、恋する人間は皆こうなるのだ。一分一秒も大切な人間のそばに居て、その確かなぬくもりに触れていたい。

「そう、です……ね……」

 成歩堂の目線が横へ流れていき、大きく開いた。驚いたように口を動かし、動きが止まる。

「……どうしたんだい?」

 視線の先に何があるのかと背後を振り返るも、待合のロビーには複数の人間がいて判断がつかない。けれど、その目の先を線でたどると一人の男に行き当たり、俺はニヤリと笑みを浮かべた。

「あぁ、噂の天才検事じゃねえか。アンタも興味があるのかい?」

 刺繍細工が綺麗にほどこされたクラバット。映画やらで中世貴族が身にまといそうなゴシック調の衣類。ご本人さまもスクリーンの中にいるような色男だ。さて成歩堂はこの三つのポイントのどこに目を奪われたのだろう。

「興味っていうか……誰かアレに突っ込んだ人っているんですか? 本人はいいかもしれないけど、検事がああいう格好って、なんだか、えぇと、面白おかしいというか」

「裁きの庭は才能さえあれば身にまとう衣類なんてどうでもいいのさ。最終的に下されるのは無罪か有罪。そこに衣装でポイントが左右されるってことはありえねぇ。俺がアンタをまとっていたってナニしてたって、勝訴は勝訴のまんまさ」

「……その前に公然わいせつ罪で逮捕されちゃいますよ」

「事務所の個室では燃えても裁判所じゃダメってのかい。次はどこでお楽しみ出来るんだろうなぁ」

 ヒラヒラ検事を見つめる成歩堂の目には色々な感情が浮かんでいて少しばかり気に食わない。成歩堂が浮気するタチだとは思わないがそれでもあからさまに関心を示されると不快感が湧き上がり俺はひょいと片眉を上げてあえて明るい口調で言った。

「俺の目の前で他の男に色目を使うなんてひどいぜ。俺の男心をもてあそんでそんなに楽しいのかい、コネコちゃん」

「ばかですね、そういうわけじゃありませんよ。ただ、なんでしょうね。……呑田さんを見た時と同じです、知人に似ているなって」

 成歩堂について俺が知っていることは少ない。それこそ履歴書に書かれている内容と、本人が語った事柄がいくつかあるのみ。偽りを口にしていても俺には分からない。

 ただ、確実に言えることは、ゴドーという同性の恋人を失い天涯孤独ということだ。そして、ゴドーは俺に似ていて、成歩堂の中に今なお根強く残っている存在。

(あとは……呑田、だったか?)

 俺を毒殺しようとしたちなみの彼氏。毒を入手するために利用されただけなのだが、ちなみの供述のせいもあって共犯者とも疑われ、俺が手助けして潔白を晴らした男だ。

 その礼ということで事務所に来た呑田に、成歩堂はどこか泣きそうな顔でたずねた。幸せかと。その問いかけは何度となく俺が受けたもので、俺の幸せを願ういじらしさに震えた胸が今度は嫉妬の業火に焼かれたのだ。

 俺がゴドーに似ているなら、呑田は尊敬していた先輩に似ているらしい。それぞれにそれぞれを重ね、成歩堂は悲しそうな顔で笑った。

「呑田のヤツに似てたっていう先輩のことかい?」

「違いますよ、幼馴染です。僕にも昔、あんな風にヘタレな幼馴染がいたんです」

 フフ、と緩く笑う成歩堂の顔には親しみが満ちている。初めてここのカフェテリアで出会った頃と比べて、表情豊かになったものだ。それが自分の影響であればとても誇らしく、もっと違う顔が見たいと願い、同時に、誰にも見せずに愛でていたいと思った。

「失礼、通してもらう。……ム、神乃木弁護士か」

 肩に軽い接触を受けて顔を向けると、話題の主、若き天才検事がいた。

 邪魔なところに立っていた自分にも非があることは分かっていたので、軽く手を振ってかまわないと伝えるも、御剣は俺の顔を見たまま動こうとはしなかった。

「俺にご用事かい、ヒラヒラ検事さんよぉ」

 何かを意図してではないが、椅子に座る成歩堂の前に出て背中に隠すように立つ。身長差のある御剣を見下ろしながら、成歩堂と同じくらいの身長かとなんとなしに思った。

「彼女が……逮捕されたと聞いたのだが、本当なのだろうか」

 ほんの少し言いよどみ、御剣は視線をそらした。

 彼女、という三人称が一体誰を指すのか、具体的な名称がなくとも分かる。この男も件の裁判においてそれなりの傷を受けたのだ、もちろん一番深い傷は千尋の受けたソレなのだろうが。

「あぁ、殺人未遂で現行犯逮捕だ。具体的な内容については直斗のやつから聞いているだろうがな」

「うム……、罪門検事から話は伺っているが、どうしても私には信じられないのだ。あの用意周到で裏でしか糸を引かない彼女が自分の手を汚し、逮捕されるような原因を作るなどと」

「……そうだな、俺も運が悪けりゃ、あの女の手にかかって死んでしまっていたことだろう」

 あの折れそうな細い身体にどれほどの悪意を秘めているのか、姿を思い返すだけでおぞましさに似た震えが走り、俺は苦々しく舌打ちした。

「コーヒーのマグカップから毒が検出されたと聞いたが、その後体調の方はどうなのだろう。大学で管理していた毒物らしいが」

「あぁ、ソイツは大丈夫さ。俺が毒に染まった闇を飲み込む前に、このコネコが助けてくれたからな」

 紹介するちょうどいいタイミングだと、俺は一歩身体をずらして隣にいる成歩堂を示した。

「紹介するぜ、成歩堂龍一だ。俺の命の恩人であり、今は秘書として色々と力になってくれている」

 ほんの数日前に知ったばかりの名前はどうにも慣れないが、そのうち成歩堂を龍一と呼び捨てることも多くなってくるだろう。むしろ慣れさせるために今度から龍一と名前呼びしようか、などと考えて俺はクツクツと喉を震わせた。

「成歩堂、龍一?」

「初めまして、神乃木の助手を勤めさせていただいております。あいにくと今は名刺を切らしておりまして」

 するすると挨拶し頭を下げる成歩堂とは対照に、御剣は白い面をさらに白く染めて眉根を寄せた。

「いや、違うな……。彼は私と同じ年齢だ、こんな……だが、似過ぎている、雰囲気は若干違うがしかも同姓同名、だと……」

「俺のコネコが一体どうかしたのかい?」

 口の中でもごもごとつぶやく言葉は不明瞭で単語しか拾えない。身を乗り出してたずねると、我に返ったらしい御剣は目を瞬かせた。

「これは失礼をした、古い知人に似ていたもので驚いてしまったのだ。長居をしてしまったな、神乃木検事、次は法廷で真向かえるのを楽しみにしている。そこのキミも、サポートを頑張りたまえ」

 では、とうやうやしく腰を折ると、御剣はモーゼのように人の波を割って去っていった。

「ふ……ふふっ、くくくっ」

 横から聞こえた笑い声に視線を落とすと、成歩堂が腹をかかえてくの字になって笑っていた。楽しそうなその様子に思わず目を細め、俺はああと腹の内側で唸る。

(こいつが笑うだけで、こんなに幸せを感じるとはな)

 その仕草一つ。その声一つ。その笑み一つ。成歩堂がみせる欠片がどれほどに俺の心を乱すのか、コネコは自覚しているのだろうか。一人ぼっちだと震えてやさぐれていた成歩堂が俺の前ではこうして素の表情をさらしてくれる。ただそれだけがこんなにも幸せをもたらす。

 くしゃりと髪を優しくなでると、成歩堂は笑みをひっこめて俺を見上げる。何でもない、と視線で返し、行こうとうながした。

 法廷でも事務所でも、そしてプライベートでも、成歩堂はこうして俺の隣にいる。

 それがたまらなく、――誇らしかった。



********************
いつか書こうと思って途中放棄していたネタ。
このあと実は真宵ちゃんが現れる予定でした。
ちなみに、死ななかった吞田さんとニットさんはばったりと出会っちゃってます。
えーと、実はコピー本に掲載しようとしたお話の、続編で妄想していたものだったりします。

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