08 | 2024/09 | 10 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 |
8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 |
15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 |
22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 |
29 | 30 |
お風呂上りに夕涼み。チリンと鳴る風鈴が少しだけ涼を誘って、暑さで茹った思考のままウチワで胸元をあおいだ。
すぐ横からは、ブタの陶器から蚊取り線香の匂いがして。子供みたいにブラブラと足を揺らしながら、開け放した縁側で見るともなしに庭先のヒマワリを見つめた。
(弁護士バッジはヒマワリをかたどっているんだって言ってたな)
検事は秋霜烈日、裁判官は真実を測る天秤、それぞれに意味があるのだと自慢げに教えてくれた。あの日もこんな晩夏の夕暮れ、にわか雨のせいで蒸し暑い日のことだった気がする。
「ヒマワリってのは、お前に似合うかもな」
遊園地からの帰り道。呑田さんはそう言って軽く笑った。でも、僕は笑い返すことすら出来なくて、足元に長く続く二つの影を見つめ続けた。
(呑田さん、あの子と付き合うのかな……)
今日は、呑田さんとちぃちゃんと僕の三人で遊園地に行く予定になっていた。でも、当日の今日、呑田さんの隣には見覚えのない女の子がいて。
呑田さんの押しかけ恋人なのだと笑っていた。そして、呑田さんもそれを否定することはなく、彼女が腕を絡めるのを好きにさせて。
「オイ、どうしたって言うんだよ、龍一」
乱暴に腕を取られ、僕たちは道端で足を止めた。生返事しかしない僕に苛立った様子の呑田さんは、険しい表情で間近から僕を見下ろして。
「……まつげ、長い」
夕日が横合いから呑田さんの顔を照らして、はっきりとした陰影を作り出す。長いまつげの、長い影を見て、その整った顔立ちに心臓が跳ねた。
こんな顔をしていたのだという驚きと、疑問。どうしてちぃちゃんはこんなに素敵な人と別れて、僕と付き合うことにしたんだろう。
(でも、そのおかげで僕は、呑田さんと知り合うことができた)
一つ上の先輩。知り合ったのは、僕の恋人ちぃちゃんが、昔付き合っていた人だと紹介してくれたからだ。大学が同じでも学部が違えば知り合う機会なんてない。たからその人と知り合って言葉を交わせる距離にいることは奇跡のようなもので。だから僕は、その奇跡をもたらしてくれたちぃちゃんに運命を感じてしまうのだ。
「大丈夫か、アンタ。そういや遊園地でも様子がおかしかったが、この暑さでイカれちゃったのかよ」
ぐっとその顔が近づいてきて、僕は唇をかみ締めた。
「お、おい? どうしたんだ、龍一」
涙が出る。理由もなく、ぼろぼろと目から涙がしたたって、僕は身体の両側で手のひらを握り締める。
こわばった肩にパラパラと雨が降る感触がして、にじんだ視界の中、呑田さんがチッと舌打ちして空を見上げた。
「くそ、にわか雨かよ。龍一、オレのアパートに来い」
手を引かれて走り出し、それでも涙を止めることは出来なくて、僕は泣きながら呑田さんの後ろに続いた。
こんなイントロでスタートするはずでした。
個人的に、縁側で夕涼みしている最初の部分が気に入っていますので、何かのお話で使いまわしできたらなーと思いつつ。
以上。ボツネタ劇場でした。まる。